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名古屋地方裁判所 昭和57年(ワ)567号 判決

原告

トヨタソフコン株式会社

右代表者

山内一剛

右訴訟代理人

伊藤和尚

長屋容子

被告

石川茂樹

右同

石川京子

右同

大前勇

右同

大前康子

右被告ら訴訟代理人

塚平信彦

主文

本件訴はいずれも却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実〈省略〉

理由

一本案前の抗弁について判断する。

1  〈証拠〉によれば、原告、被告ら間における本件請負契約につき作成された契約書には、四会連合約款が添付されていることが認められるので、右四会連合約款は本件請負契約の契約の一部をなすものとみるを相当であり、右証拠によると、右四会連合約款三〇条には、被告ら主張のとおりの文言(仲裁条項)の記載があることも認められる。

2  原告は仲裁契約の成立があるというためには、当事者間において、紛争解決手段として訴訟手続を排し、もつぱら仲裁人によるあつ施、調停ないし仲裁のみによつて紛争を解決するという明確な規範意識のもとに締結されたものでなければならないと主張する。

なるほど、一般的に仲裁契約の成否に関しては、それが訴の利益を阻却する不起訴の合意の趣旨を含むものである以上その成否は慎重に決せられるべきであつて、書面によると口頭によるとを問わず、また、明示、黙示を問わないとしても少くとも仲裁付託の意思が当事者間に明確に存在して始めて仲裁契約は成立するものと解すべきは当然であり、請負契約書に添付の四会連合約款に仲裁条項が存在するというだけで直ちに、かつ当然に仲裁契約の成立があつたとみることはできないと解する。そこで、これを本件についてみるに、〈証拠〉を総合すると、原告と被告ら間で作成された本件請負契約書には「……住宅新築工事の施行について、つぎの条項と添付の工事請負契約約款、設計図 枚、仕様書 冊とにもとづいて、工事請負契約を結ぶ。」と明確に記載されているし、更に右契約書6項の建設工事紛争審査会名の記載欄に原告の上社展示場店長(当時)市川宮雄の自らの手によつて添付の「四会連合協定約款による」との文言を書き込んで建設工事に関する紛争の解決は四会連合約款による建設工事紛争審査会に委ねることを明らかにしており、原告、被告ら各契約当事者らは、右契約書の各文言を承認して署名捺印したこと、市川宮雄は被告らに対し、契約締結に際し、「原告は県が認可した信頼できる業者で争いごとは起きないが、もし起きたときは県でまとめる機関があります。」「この約款は三種類位のものを集めてそのなかから最適と思われるものを採用したもの……」との要旨の説明はしているが、特に紛争の解決方法として、県でまとめる機関によるあつ旋、調停ないし仲裁による以外に訴訟手続によることもできるとの説明は全くしていないし、四会連合約款三〇条の文言自体の有する意味からも、紛争の解決を建設工事紛争審査会によるあつ施、調停ないし仲裁と裁判所による訴訟手続とを任意選択できるとの意味までは汲み取れないこと、本件請負契約に用いられた契約書は従来より原告で使用しているものであり、四会連合約款を原告が使用したのも今回が初めてではなく、建設業者である原告が四会連合約款三〇条の文言の意味内容を充分理解しないで、漫然と右契約書用紙や四会連合約款を使用していたとは到底考えられないこと、被告らは、本件工事が完成した後、雨漏り等の不具合な点を認めたので、契約の際に市川宮雄の説明で初めてその存在を知つた県建設工事紛争審査会を訪れて相談していること、以上の事実を認めることができ〈る。〉

以上によると、原告と被告ら間の本件請負契約について、紛争が生じたときはもつぱら建設工事紛争審査会のあつ旋、調停ないし仲裁に付する旨の確定的な約束が右各当事者間になされたものと解するのが相当である。

3  原告は、仲裁に付すべき建設工事紛争審査会名が特定されていないので、仲裁契約はその効力を生じない旨主張する。

〈証拠〉によると、本件請負契約の一部をなす四会連合約款三〇条には「契約書に定める建設工事紛争審査会の仲裁に付する。」旨規定され、契約書によると「四会連合協定約款による建設工事紛争審査会」の仲裁に付する旨の内容の記載がなされていることは明らかであつて、結局、仲裁に付すべき具体的な審査会名は契約上明確にされていないことになるけれども、かかる場合にあつても建設業法二五条の九の二項の規定により仲裁すべき審査会は自ら定まるのであるから契約書の記載上から仲裁に付すべき具体的な建設工事紛争審査会が特定されていないことの故のみをもつて、仲裁契約の効力を否定すべき理由とはならない。

そうすると、原告の右主張は理由がないことになる。

4  ところで、原告は、原告と被告ら間の請負契約に関し、被告らが請負残代金の支払をしないとして、本訴において、その支払を求めているものであることは記録上明らかであり、これは原告と被告ら間の右契約に関して生じた紛争に該当することもまた明らかである。そうすると、原告は、特段の事情でもない限り、仲裁契約に従つて仲裁手続を進めるべきであつて、裁判所における訴訟手続によつて紛争解決をはかることは許されないというべきであり、右特段の事情を認めるに足る証拠もない。

二以上の次第によると、本件訴は、本案につき判断をすすめるまでもなく、結局、訴権を欠く不適法なものであるとして却下を免れ得ず、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決することとする。 (大橋英夫)

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